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障害者が生活保護を利用するための完全ガイド:申請条件から併用できる制度まで

障害者が生活保護を利用するための完全ガイド:申請条件から併用できる制度まで

著者: フラカラ編集部

このコラムのまとめ

障害者が生活保護を受ける際、「障害者加算」で受給額がいくら増えるのか、障害年金とどちらが優先されるのかを解説。最新基準に基づき、申請条件から就労移行支援との併用ルール、却下されないための注意点まで網羅しました。「働けないから不安」という悩みを解決し、安定した生活を送るための具体策がわかります。

生活保護制度とは?障害者にとっての意義と基本原則

「働けないのに、どうやって生きていけばいいのか」——障害を抱えながら経済的に追い詰められた方が、最初にぶつかる壁がこの問いです。生活保護制度は、まさにこうした状況に対して国が用意した仕組みであり、日本国憲法第25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を現実の生活に落とし込むための社会保障制度です。

ただし、制度の存在を知っていることと、実際に使いこなせることはまったく別の話です。特に障害のある方にとっては、申請手続きそのものがハードルになったり、窓口で思わぬ対応を受けて心が折れたりするケースも珍しくありません。このガイドでは、制度の概要だけでなく、「実際に動くために必要な情報」を具体的にまとめています。

生活保護の基本的な仕組み

生活保護の考え方はシンプルです。国が定めた「最低生活費」と、その世帯の「実際の収入」を比べて、収入が最低生活費に届かない場合に差額が支給されます。

たとえば、東京都区部に住む30代の単身者であれば、最低生活費はおおむね月13万円前後(家賃含む)。障害年金2級を受給して月約6.5万円の収入がある場合、残りの約6.5万円が生活保護として支給される——という仕組みです。

ここで押さえておきたいのは、障害者が生活保護を利用するうえでの3つの基本的な考え方です。

  • 障害に伴う生活上の困難に配慮した支援が受けられる——障害者加算や医療扶助など、健常者にはない追加の支援がある
  • 障害者手帳の有無は、申請の絶対条件ではない——手帳がなくても、実際に生活が困窮している状態であれば申請できる
  • 障害年金など他の福祉制度との併用が可能——「障害年金をもらっているから生活保護は受けられない」は誤解

障害者にとって生活保護が持つ3つの意味

障害のある方にとって、生活保護は「お金をもらう制度」にとどまりません。具体的には、次の3つの領域で生活を根本から支えてくれます。

① 経済的な土台の確保
障害によって就労そのものが制限されたり、働けても短時間勤務にとどまったりする場合、収入だけで生活を成り立たせるのは現実的に困難です。生活保護はその不足分を補い、生存の最低ラインを維持します。

② 医療へのアクセス
精神科への定期通院、リハビリテーション、投薬治療——こうした障害に関わる医療費は、保険の自己負担分だけでも月に数千円から1万円を超えることがあります。生活保護の医療扶助が適用されれば、窓口での自己負担はゼロになります。「お金がないから通院を減らす」という危険な判断をしなくて済む。これは命に直結する話です。

③ 住居の安定
住宅扶助によって家賃が補助されるため、「家を失うかもしれない」という恐怖から解放されます。障害特性に応じたバリアフリー住宅が必要な場合は、通常より高い家賃上限が認められる可能性もあります。

生活保護制度の8つの扶助

生活保護は、ひとつの制度の中に8種類の「扶助」が組み込まれています。必要に応じてこれらが組み合わせて支給されるため、自分がどの扶助を受けられるかを把握しておくことが大切です。

福祉事務所ケースワーカー

扶助の種類 内容 障害者にとってのポイント
生活扶助 食費・被服費・光熱費など日常生活費 障害者加算あり(後述)
住宅扶助 家賃、地代、住宅の修理費 バリアフリー住宅は上限額の引き上げ可能性あり
教育扶助 義務教育に必要な学用品費 障害のある子どもがいる世帯に関係
医療扶助 医療サービスの費用 障害関連の治療・リハビリも対象
介護扶助 介護サービスの費用 介護保険の自己負担分をカバー
出産扶助 出産にかかる費用
生業扶助 就労に必要な技能習得費用 就労移行支援と組み合わせた活用が可能
葬祭扶助 葬祭にかかる費用

生活保護の4つの基本原理——「補足性の原理」に注意

生活保護制度には4つの基本原理がありますが、障害者が特に意識しておくべきは「補足性の原理」です。

  • 国家責任の原理:国が責任を持って最低限度の生活を保障する
  • 無差別平等の原理:障害の有無や種類、生活困窮に至った理由によって差別されない
  • 最低生活保障の原理:単に「餓死しない」レベルではなく、健康で文化的な水準の生活を保障する
  • 補足性の原理:資産や能力の活用、扶養義務者の扶養、他の制度の利用が前提

この「補足性の原理」が、窓口で申請を断られる際の根拠として使われることがあります。「まだ働けるでしょう」「ご家族に頼れませんか」「障害年金を先に申請してください」——こうした言葉の背景には、この原理の拡大解釈が潜んでいます。しかし、障害によって就労が著しく制限されている場合、その実態を踏まえた判断がなされるべきであり、機械的に「働ける可能性がある=申請不可」とはなりません。

生活保護は憲法第25条に基づく権利であり、申請すること自体を阻止されることは法律上許されていません。「恥ずかしい」「迷惑をかける」と感じる方もいますが、障害があるために十分に働けない状況で制度を使うことは、制度が本来想定している利用のあり方そのものです。

就労支援コーディネーター

障害者が受けられる生活保護の支給内容と金額

生活保護の支給額は、住んでいる地域、世帯構成、障害の等級によって大きく変わります。「自分の場合はいくらもらえるのか」を知るためには、まず計算の仕組みを理解しておく必要があります。

障害者加算の仕組みと金額

障害のある方が生活保護を受ける場合、通常の生活扶助に加えて「障害者加算」が上乗せされます。障害があることで生じる日常的な追加出費——たとえば移動にかかる費用や、身の回りの介助に関する費用——を補うためのものです。

障害者加算の対象と金額は以下の通りです(2025年度基準)。

区分 障害等級1級・2級または障害年金1級 障害等級3級または障害年金2級
1級地(東京23区・大阪市など) 26,810円 17,870円
2級地 24,940円 16,620円
3級地(町村部など) 23,060円 15,380円

出典:

ここで注意が必要なのは、障害者手帳の等級と障害年金の等級は別物だという点です。身体障害者手帳2級を持っていても、障害年金では1級と認定される場合もあれば、その逆もあります。自分がどちらの基準でどの等級に該当するかを事前に確認しておきましょう。

実際の受給額シミュレーション

「結局、手元にいくら残るのか」——これが最も知りたいポイントだと思います。いくつかのパターンで試算してみます。

【ケース1】東京都区部・30歳単身・障害等級2級・障害年金なし

生活扶助(第1類+第2類) 約76,310円
障害者加算(2級) 17,870円
住宅扶助(上限) 53,700円
最低生活費合計 約147,880円
収入 0円
生活保護支給額 約147,880円

【ケース2】東京都区部・30歳単身・障害等級2級・障害基礎年金2級あり

最低生活費合計 約147,880円
障害基礎年金2級(月額) 約66,250円
生活保護支給額 約81,630円

障害年金を受給していても、最低生活費との差額がしっかり支給されます。年金があるから生活保護は受けられない、ということはありません

【ケース3】地方都市(3級地)・40歳単身・障害等級1級・障害基礎年金1級あり

生活扶助(第1類+第2類) 約66,300円
障害者加算(1級) 23,060円
住宅扶助(上限) 約32,000円
最低生活費合計 約121,360円
障害基礎年金1級(月額) 約82,812円
生活保護支給額 約38,548円

※上記はあくまで概算です。実際の支給額は級地区分、世帯構成、年齢等により異なります。正確な金額は福祉事務所で確認してください。

医療扶助——障害者にとっての「命綱」

金額面でのインパクトが最も大きいのが、実は医療扶助かもしれません。生活保護を受給していれば、医療機関の窓口で支払う自己負担がなくなります。

具体的にカバーされる範囲は以下の通りです。

  • 通院・入院費用の全額
  • 処方薬の費用
  • リハビリテーション
  • 精神科デイケア
  • 訪問看護(医師の指示がある場合)

ただし、いくつか知っておくべき注意点があります。

受診の流れが通常と異なる:生活保護の医療扶助で受診する場合、まず福祉事務所から「医療券」を発行してもらい、それを医療機関の窓口に提示する必要があります。健康保険証のように常時携帯するものではないため、急な体調悪化時には手続きに手間取ることがあります。緊急時の対応については、あらかじめ担当ケースワーカーに確認しておきましょう。

自立支援医療との関係:すでに自立支援医療(精神通院医療や更生医療など)を利用している方は、生活保護受給後は医療扶助が優先適用されます。自立支援医療の自己負担分(通常1割)が医療扶助で補填されるかたちになるため、結果的に自己負担はゼロです。ただし、自立支援医療の受給者証は引き続き保持しておくことをお勧めします。将来的に生活保護から卒業した際、すぐに自立支援医療に切り替えられるからです。

住宅扶助と障害者向けの配慮

住宅扶助は、実際に支払っている家賃(上限あり)が支給される仕組みです。上限額は地域によって異なり、たとえば東京都区部の単身世帯であれば53,700円が上限です。

障害のある方に関しては、以下のような特別な配慮が認められる場合があります。

  • バリアフリー住宅が必要な場合:車いすの使用、視覚障害に対応した設備などの理由で通常の物件より家賃が高くなる場合、上限額の引き上げが検討されることがある
  • 特定の住環境が必要な場合:エレベーター付き物件や1階の部屋が必要な場合など、障害特性に応じた住居の必要性を具体的に説明することで、柔軟な対応を引き出せる可能性がある
  • 転居費用:現在の住居がバリアフリーでない場合、福祉事務所の承認を得たうえで転居費用が支給されるケースもある

住宅扶助の上限額引き上げは自動的に認められるものではありません。申請時に、なぜその住環境が必要なのかを医師の意見書や日常生活の具体的な状況とともに説明する必要があります。「なんとなくバリアフリーの方が楽」ではなく、「段差があると転倒の危険があり、過去に○回転倒して骨折した」のように、具体的に伝えることが重要です。

障害者支援相談員

障害年金と生活保護の併用について

「障害年金をもらっているから、生活保護は無理ですよね?」——この質問は、支援の現場で最も多く聞かれる誤解のひとつです。結論から言えば、障害年金と生活保護は併用できます。むしろ、多くの障害年金受給者にとって、年金だけでは生活が成り立たないのが実態です。

併用の基本的な考え方

生活保護には「他法他施策優先の原則」があります。これは、使える制度はまず使ったうえで、それでも足りない部分を生活保護で補うという考え方です。障害年金はこの「他の制度」にあたるため、年金を受給していればその分だけ生活保護費が減額されます。

ただし、これは「年金をもらっていると損する」という意味ではありません。最終的に手元に残る金額(最低生活費)は、年金があってもなくても同じです。違いは「お金の出どころの内訳」だけ。年金が多ければ生活保護費が減り、年金が少なければ生活保護費が増える——合計額は同じです。

障害基礎年金と障害厚生年金——それぞれの事情

障害基礎年金のみの場合
2024年度の障害基礎年金は、1級で年額約103万5千円(月額約8万6千円)、2級で年額約79万5千円(月額約6万6千円)です。都市部の最低生活費が月13~15万円程度であることを考えると、年金だけでは到底足りず、生活保護との併用が必要になるケースがほとんどです。

障害厚生年金を受給している場合
厚生年金に加入していた期間の報酬に応じた額が上乗せされるため、人によっては障害基礎年金よりかなり高額になります。過去に高い給与を得ていた方の場合、年金額が最低生活費を上回り、生活保護の対象にならないこともあります。ただし、これはケースバイケースであり、自己判断で「自分は無理だ」と諦めず、まず計算してみることが大切です。

見落としがちな落とし穴——障害年金の遡及払い

障害年金は認定までに数か月から1年以上かかることがあり、認定後に過去の分がまとめて振り込まれる「遡及払い」が発生することがあります。数十万円、場合によっては100万円を超える金額が一度に口座に入ることも。

ここが厄介です。生活保護を受給中にこの遡及払いを受け取った場合、生活保護を受けていた期間と重なる分は返還を求められます。つまり、「年金がまとめてもらえたからお金が増える」わけではなく、その分の生活保護費を自治体に返す必要があるのです。

急に大きな金額が入金されて驚く方が多いのですが、使ってしまう前に必ず担当ケースワーカーに連絡してください。返還額の計算と支払い方法について相談できます。自治体によっては分割返還に応じてくれることもあります。

障害年金の申請は、生活保護の申請と並行して進めることが可能です。「障害年金が決まるまで待ってください」と窓口で言われることがありますが、これは正しくありません。生活が困窮しているのであれば、年金の結果を待つ必要はなく、同時に申請できます。

生活保護申請支援弁護士

就労支援施設(A型・B型・就労移行支援)と生活保護の関係

障害のある方の就労には、いくつかの段階があります。いきなり一般企業で週5日フルタイム勤務、というのは現実的でない場合が多く、就労支援施設を経由して段階的に働く力を身につけていく方が大半です。ここでは、各就労形態と生活保護の関係を整理します。

A型事業所(就労継続支援A型)で働く場合

A型事業所は障害者と雇用契約を結び、最低賃金以上の給与を支払う事業所です。月収は地域や勤務時間によって異なりますが、おおむね月8万円~12万円程度が多いとされています。

A型事業所の収入は「就労収入」として認定されるため、生活保護費は減額されます。ただし、勤労控除という仕組みがあり、働いて得た収入の一部は控除されます。つまり、「稼いだ分だけ保護費が減って結局同じ」にはなりません。働いた分だけ、手元に残るお金がわずかに増える設計になっています。

注意すべきは、A型事業所でフルタイムに近い勤務をした場合、収入が最低生活費を超えて生活保護が停止・廃止される可能性がある点です。ただ、実際にはA型事業所の収入だけで最低生活費を上回るケースは多くありません。不安がある場合は、事前にケースワーカーに収入見込みを伝えて試算してもらいましょう。

B型事業所(就労継続支援B型)の工賃と生活保護

B型事業所は雇用契約を結ばない福祉的就労の場で、支払われるのは「給与」ではなく「工賃」です。全国平均の月額工賃は約24,000円(令和6年度実績)です。

工賃は収入として認定されますが、ここにも控除の仕組みがあります。月額8,000円までは基礎控除として全額手元に残り、それを超えた分も一定割合が控除されます。正直なところ、B型事業所の工賃が生活保護費に大きく影響することはまずありません。

B型事業所に通うことで生活保護が打ち切られることは、基本的にないと考えて差し支えありません。むしろ、日中の活動場所として、生活リズムの安定や社会参加のきっかけとして、積極的に活用すべき場です。

出典:

就労移行支援を利用する場合

就労移行支援は、一般企業への就職を目指して最長2年間、就労に必要なスキル訓練や就職活動の支援を受けるサービスです。訓練期間中は基本的に収入が発生しないため、生活保護への影響はありません

むしろ、生活保護で経済的な基盤を確保しながら就労移行支援で力をつける、という組み合わせは、将来的な自立を見据えたときに非常に合理的な選択です。

就労形態 月収の目安 生活保護への影響
A型事業所 8万円~12万円 収入認定あり・勤労控除適用で減額
B型事業所 1万円~3万円 基礎控除あり・影響は軽微
就労移行支援 基本的に収入なし 影響なし

障害者が生活保護から自立するためのステップ

「生活保護からの自立」という言葉に、プレッシャーを感じる方もいるかもしれません。先に断っておくと、自立=生活保護を卒業すること、とは限りません。障害の状態によっては、生活保護を受け続けながら自分らしい生活を送ること自体が「自立」です。無理に保護を切ることがゴールではない——この前提を踏まえたうえで、就労を通じた自立を目指す方のためのステップを整理します。

障害福祉サービスをフル活用する

障害者総合支援法に基づく福祉サービスは、生活保護と併用できます。自立に向けて特に効果的なサービスは以下の通りです。

  • 計画相談支援:サービス等利用計画を作成し、定期的に見直す。いわば自立へのロードマップを専門家と一緒に描く作業
  • 就労移行支援:一般企業への就職を見据えた実践的な訓練
  • 就労定着支援:就職後6か月を超えてから最長3年間、職場でのトラブルや生活面の課題を支援者がフォロー
  • 居宅介護(ホームヘルプ):家事や身体介護のサポートで、就労に集中できる環境を整える

就労支援プログラムの活用

障害福祉サービス以外にも、就労を支援する公的な仕組みがあります。

  • ハローワークの専門支援窓口:障害者専門の相談員が配置されており、障害特性に合った求人の紹介や職業相談が受けられる
  • 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ):就業面と生活面を一体的にサポートする機関。職場でのトラブルから日常生活の困りごとまで幅広く相談できる
  • 地域障害者職業センター:職業評価、職業準備支援、ジョブコーチによる職場適応支援など、より専門的なプログラムを提供

段階的な自立のイメージ

自立へのプロセスは、一直線には進みません。体調の波やメンタル面での浮き沈みを経ながら、少しずつ進んでいくのが普通です。あくまで一例ですが、以下のようなステップが考えられます。

第1段階:生活基盤の安定
生活保護で経済面を安定させながら、通院と体調管理に集中する。B型事業所への通所で生活リズムを整える。

第2段階:就労準備
就労移行支援やA型事業所を利用し、働くための体力やスキルを段階的に身につける。

第3段階:就労開始
短時間のパートやトライアル雇用から始める。勤労控除によって、働いた分だけ手取りが少し増える。

第4段階:収入の安定化
勤務時間の延長や正社員登用などで収入が増加。就労定着支援を利用しながら職場に定着する。

第5段階:保護からの卒業(該当する場合)
収入が最低生活費を安定的に上回れば、生活保護は停止・廃止となる。ただし、急な体調悪化や失職の際には再申請も可能。

繰り返しになりますが、全員が第5段階まで到達する必要はありません。第2段階や第3段階で安定的に過ごすことが、その方にとっての最善のかたちであることも珍しくありません。

障害者支援専門家

障害者が生活保護を受けるための申請条件と対象者

生活保護は「最後のセーフティネット」と呼ばれますが、その申請条件は意外と複雑で、特に障害のある方にとっては判断が難しい部分もあります。ここでは、申請の前に確認しておくべき条件を具体的に整理します。

「資産・能力の活用」——障害者の場合はどう判断されるか

補足性の原理により、生活保護を受けるには「持っている資産や能力をまず活用してください」という前提があります。では、障害者の場合、これはどう判断されるのでしょうか。

【資産について】

預貯金は原則として最低生活費の半月分程度まで保有が認められます。生命保険は解約返戻金が少額であれば保有を認められる場合があります。

問題になりやすいのが自動車の保有です。生活保護では原則として自動車の保有は認められませんが、障害のある方には例外が認められる場合があります。

  • 公共交通機関の利用が著しく困難な障害がある場合
  • 通院先が遠方で、車がないと通院できない場合
  • 地方在住で公共交通機関が極端に不便な場合
  • 就労のために自動車が不可欠である場合

ただし実務上は、自動車の保有を認めてもらうのはかなりハードルが高いのが現実です。医師の意見書や通院先の所在地を証明する書類など、「なぜ車が必要か」を客観的に示す資料を準備しておくことが不可欠です。2023年には厚生労働省から通知が出され、障害者の自動車保有に関する判断基準がやや緩和されましたが、自治体ごとの運用にはまだばらつきがあります。

【能力の活用について】

「働く能力の活用」は、障害のある方にとって最も敏感な論点です。窓口で「もっと働けるのでは」と言われ、心が折れたという話は後を絶ちません。

しかし、法律上の判断基準は明確です。障害の状態を考慮したうえで、現実的に就労が可能かどうかが判断されます。「理論上は何かしらの仕事ができる」ではなく、「実際に安定して働くことができるか」が基準です。精神障害で週に数日しか動けない、知的障害で複雑な業務に対応できない、身体障害で通勤自体が困難——こうした事情は「能力活用の限界」として認められるべきものです。

医師の診断書に就労に関する所見(「現時点で一般就労は困難」「短時間勤務が限界」など)を記載してもらうことで、窓口での交渉がスムーズになります。

扶養照会——家族への連絡が心理的障壁になる問題

生活保護を申請すると、親やきょうだいなどの扶養義務者に「この方を扶養できますか?」という照会が行われるのが原則です。これが申請をためらわせる最大の原因のひとつだと言われています。

特に障害のある方の場合、家族との関係が複雑であることが少なくありません。障害を理由に家庭内で虐待を受けていた、障害の受容をめぐって家族と断絶している——そうした事情がある場合、扶養照会は単なる手続き上の話ではなく、安全や精神的健康に関わる重大な問題です。

扶養照会が行われない(または緩和される)ケース

  • DV・虐待の被害がある場合
  • 扶養義務者自身が生活保護受給中、または経済的に困窮している場合
  • おおむね10年以上音信不通の場合
  • 扶養義務者が70歳以上の高齢者の場合
  • 申請者が扶養照会によって著しい精神的苦痛を受ける場合

2021年の厚生労働省通知により、扶養照会の運用は以前よりも柔軟になっています。「家族に知られたくない」という理由だけでは免除されませんが、具体的な事情を説明すれば配慮してもらえる可能性は十分にあります。申請時に「扶養照会について相談したい」と伝えましょう。

世帯分離という選択肢

生活保護は「世帯単位」で判定されるため、同居家族に収入がある場合は世帯全体の収入で判断され、保護の対象にならないことがあります。しかし、障害のある方については「世帯分離」が認められるケースがあります。

世帯分離が認められうるケース 具体例
就労している家族と同居 親と同居しているが、障害者本人に収入がなく、親の収入も世帯全体の最低生活費をまかなうほどではない場合
施設・グループホームへの入所 障害者支援施設やグループホームに入所している場合、入所者のみを別世帯として扱える
長期入院 6か月以上の入院が見込まれる場合、入院者を別世帯として扱うことがある

世帯分離は申請すれば自動的に認められるものではなく、個別の事情を踏まえた判断がなされます。相談支援専門員や法テラスの弁護士に事前に相談し、自分のケースで世帯分離が可能かどうかを確認することをお勧めします。

相談支援専門員

障害者が生活保護を申請する際の流れと必要書類

制度の仕組みがわかっても、「では明日から何をすればいいのか」がわからなければ意味がありません。ここでは、申請の具体的な手順を、実際の行動レベルで解説します。

ステップ1:事前準備(申請の1~2週間前)

① 管轄の福祉事務所を確認する
住民票がある市区町村の福祉事務所が窓口です。「○○市 福祉事務所 生活保護」で検索すれば、所在地と電話番号が見つかります。市部では市役所内に、町村部では都道府県の福祉事務所が管轄していることが多いです。

② 電話で事前相談する
いきなり窓口に行くより、まず電話で「生活保護の申請を検討しています。障害がありますので、来所時に配慮していただきたいことがあります」と伝えるのが賢明です。来所日の予約、必要な書類の案内、バリアフリー対応の有無などを確認できます。

③ 同行者を確保する
ひとりで申請に行くのが不安な場合——正直に言えば、不安でなくても——支援者に同行してもらうことを強くお勧めします。同行者がいるだけで窓口の対応が変わることは、残念ながら現実としてあります。

同行を依頼できる人

  • 相談支援専門員
  • 医療ソーシャルワーカー(MSW)
  • 障害者支援団体のスタッフ
  • 法テラスの弁護士・司法書士
  • 生活困窮者支援のNPO

ステップ2:必要書類の準備

書類 入手方法・備考
生活保護申請書 福祉事務所の窓口で入手。事前にもらえることもある
本人確認書類 マイナンバーカード、運転免許証、障害者手帳など
収入関係書類 給与明細、障害年金の振込通知書、各種手当の証明書
資産関係書類 預貯金通帳(すべての口座)、保険証券、不動産の書類
住居関係書類 賃貸契約書(家賃の確認のため)

障害のある方が特に準備すべき書類

  • 障害者手帳(身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳)
  • 障害年金関係書類(年金証書・年金決定通知書・振込通知書)
  • 医師の診断書(障害の状態、就労可否に関する所見が記載されたもの)
  • 自立支援医療受給者証(利用している場合)
  • 障害福祉サービス受給者証(利用している場合)

すべての書類が揃っていなくても申請自体は可能です。「書類が足りないから申請できません」と言われても、申請書の提出だけは受け付けてもらう権利があることを覚えておいてください。不足書類は後日提出すれば問題ありません。

福祉事務所職員

ステップ3:窓口での申請

福祉事務所の窓口で、生活保護の申請意思を明確に伝えます。ここが最も緊張する場面ですが、いくつかのポイントを押さえておけば対応しやすくなります。

  • 最初に「生活保護の申請をしたいです」と明確に伝える。「相談に来ました」だけだと、相談だけで終わらされることがある
  • 障害の状態と生活困窮の状況を、できるだけ具体的に説明する
  • 同行者がいれば、補足説明や書類の確認を手伝ってもらう
  • 障害特性に応じた面談の配慮(静かな部屋、短時間での分割面談など)を遠慮なく求める

ステップ4:申請後の調査と決定(原則14日以内)

申請が受理されると、ケースワーカーによる調査が行われます。自宅への訪問調査、金融機関への資産調査、扶養義務者への照会などが実施され、原則として申請から14日以内(最長30日)に保護の要否が決定されます。

この間、不安なことがあればケースワーカーに遠慮なく質問してください。調査に協力しないと申請が却下される可能性があるため、訪問調査の日程調整には柔軟に対応しましょう。

生活保護担当ケースワーカー

障害者特有の「水際作戦」対策と権利擁護

生活保護の申請段階で不当に申請を阻止されてしまう「水際作戦」は、特に障害のある方に対して行われやすいことが指摘されています。このセクションでは、障害者特有の水際作戦の実態と、それに対抗するための具体的な方法について解説します。

申請を断られたときの対処法

生活保護の申請は、憲法第25条で保障された権利に基づくものです。しかし、実際の窓口では様々な理由をつけて申請自体を受け付けないケースが報告されています。

生活保護の申請権は法律で保障されているため、どんな理由があっても申請を受け付けないことは違法です。「まずは申請書を受け取ってほしい」とはっきり伝えることが大切です。

生活保護申請支援弁護士

障害者によく見られる水際作戦の例と対処法

よくある水際作戦の例 効果的な対処法
「障害者手帳がないと申請できない」 「手帳の有無にかかわらず、生活に困窮していれば申請できる権利があります」と伝える
「障害年金を先に申請してからにしてください」 「他の制度の申請と並行して生活保護の申請をすることは可能です」と伝える
「車を持っている人は申請できません」 「障害のため通院や日常生活に車が必要です」と伝える

障害特性に配慮した面談の依頼方法

生活保護の申請時や申請後の面談では、障害特性に応じた配慮を求めることが重要です。適切な配慮があれば、コミュニケーションの障壁が減り、正確な情報伝達が可能になります。

  • 静かな部屋での面談
  • 支援者の同席
  • 面談時間の短縮や分割
  • 視覚的な資料や説明の提供

相談・支援機関の活用法

生活保護の申請や受給に関して困ったときは、様々な相談・支援機関を活用することができます。特に障害のある方は、障害福祉と生活保護の両面からサポートを受けられる機関を知っておくことが重要です。

  1. 無料の法律相談:法テラス、弁護士会の無料法律相談など
  2. 障害者支援機関:基幹相談支援センター、障害者生活支援センターなど
  3. 権利擁護機関:地域の権利擁護センター、障害者110番など

生活保護を受給中の障害者の権利と義務

「水際作戦」——福祉事務所の窓口で、様々な理由をつけて生活保護の申請そのものを受け付けないようにする行為です。違法行為でありながら、いまだに各地で報告されています。障害のある方は、コミュニケーションの困難さや制度知識の不足を理由に、特にターゲットにされやすいとされています。

障害者がよく受ける「水際作戦」とその対処法

窓口で言われがちなこと 実態と対処法
「障害者手帳がないと申請できません」 誤り。障害者手帳の有無は申請要件ではない。生活に困窮していれば誰でも申請できる。「手帳がなくても申請する権利があります」と伝える
「まず障害年金を申請してからにしてください」 誤り。障害年金の申請と生活保護の申請は同時並行で進められる。「年金の結果を待つ間の生活費がないため申請します」と伝える
「車を持っている人は対象外です」 一概には言えない。障害のため通院や生活に車が不可欠な場合は保有が認められる可能性がある。医師の意見書を準備し、具体的な理由を説明する
「ご家族に面倒を見てもらえませんか」 扶養義務者への照会は行われるが、家族が扶養を拒否した場合でも申請は可能。「扶養照会を拒否するつもりはありませんが、申請自体は今日行いたいです」と伝える
「今日は相談ということで…申請書はまた今度」 最も典型的な水際作戦。「申請します」と口頭で伝えた時点で申請の意思表示は成立する。「申請書を今日いただきたいのですが」と明確に求める

それでも申請を拒まれたら

窓口で申請を受け付けてもらえない場合は、以下の手段を検討してください。

  1. 「申請書を渡してもらえないのですか?」と改めて確認する——やりとりはメモか録音で記録する
  2. 法テラス(0570-078-374)に電話する——無料で弁護士に相談でき、場合によっては弁護士が同行してくれる
  3. 都道府県の福祉担当課に苦情を申し立てる——市区町村の福祉事務所の対応に問題がある場合、上位機関に報告することで対応が改善されることがある
  4. 地域の支援団体に相談する——生活困窮者支援を行うNPOや、障害者の権利擁護を行う団体が各地にある

生活保護法第7条は「保護の申請」を権利として規定しており、申請を受理しないこと自体が違法です。窓口でどのような説明を受けても、あなたには申請書を提出する権利があります。ひとりで立ち向かう必要はありません。支援者の力を借りてください。

生活保護担当ケースワーカー

障害特性に配慮した面談を求める方法

申請時やその後の面談で、障害特性に応じた配慮を受けることは「わがまま」ではなく、障害者差別解消法に基づく合理的配慮の一環です。具体的には、以下のような配慮を求めることができます。

  • 聴覚障害がある場合:手話通訳者の同席、筆談対応
  • 精神障害・発達障害がある場合:静かな個室での面談、短時間での分割対応、質問内容の事前提示
  • 知的障害がある場合:わかりやすい言葉での説明、支援者の同席、視覚的な資料の使用
  • 身体障害がある場合:バリアフリーの面談室、休憩の確保

配慮を求める場合は、電話での事前相談の段階で伝えておくとスムーズです。

相談・支援機関の連絡先

困ったときに頼れる機関を、あらかじめ把握しておきましょう。

相談先 対応内容 連絡先の探し方
法テラス 無料法律相談、弁護士の紹介 0570-078-374(全国共通)
基幹相談支援センター 障害福祉全般の相談 「○○市 基幹相談支援センター」で検索
生活困窮者自立支援窓口 生活全般の相談、申請の同行支援 市区町村の福祉課に問い合わせ
よりそいホットライン 24時間対応の電話相談 0120-279-338(24時間無料)

生活保護を受給中の障害者の権利と義務

生活保護の受給が決まった後も、いくつかのルールと手続きがあります。「知らなかった」が原因でトラブルになるケースもあるため、最低限押さえておくべきポイントを確認しましょう。

収入申告と生活状況の報告

生活保護受給中は、毎月の収入状況を福祉事務所に報告する義務があります。「収入がないから報告しなくていい」ではなく、収入がないことも含めて報告が必要です。

障害のある方にとって、この定期報告は地味に負担になります。書類の記入が難しい場合や期限の管理が苦手な場合は、担当ケースワーカーに率直に伝えましょう。口頭での報告を認めてもらえたり、報告のタイミングを訪問調査と合わせてもらえたりすることがあります。

報告を怠ると、最悪の場合は保護の停止や不正受給の疑いにつながります。面倒でも、これだけは確実に対応してください。

医療扶助の利用方法

生活保護の医療扶助を使って受診する場合の基本的な流れは以下の通りです。

  1. 福祉事務所で医療券(または調剤券)を発行してもらう
  2. 医療機関の受付で医療券を提示する
  3. 窓口での自己負担なしで診察・治療を受ける

注意すべき点がいくつかあります。

  • 受診できる医療機関は指定医療機関に限られる——現在通っている病院が指定医療機関かどうか、事前に確認が必要
  • 医療券は原則として月ごとに発行される——毎月の手続きが必要なため、慢性疾患で定期通院している場合は手間に感じることがある。自治体によっては長期通院者向けの継続発行に対応している場合もあるので、確認を
  • 急病の場合——事前に医療券を準備できないケースでは、後から手続きすることで対応可能な場合がある。担当ケースワーカーに緊急時の対応方法を確認しておくこと

報告が必要な主な変化

生活保護を受給中に以下のような変化があった場合は、速やかに福祉事務所に報告する必要があります。

変化の内容 報告のタイミング 補足
就労の開始・収入の変化 就労開始前にまず相談。開始後は速やかに報告 勤労控除の適用を受けるためにも必ず報告する
障害福祉サービスの利用開始・変更 利用開始前に事前相談 介護扶助との関係が生じる場合がある
入院・施設入所 入院・入所前、または直後に報告 入院中は生活扶助の計算方法が変わる
同居人の変化 変化が生じた時点で速やかに報告 世帯構成の変化は保護費に直接影響する
転居 転居前に必ず事前相談・承認が必要 無断転居は保護の廃止につながる可能性がある

まとめ:障害者が安心して生活保護を利用するためのポイント

ここまで読んでくださった方は、おそらく今まさに生活保護を必要としているか、あるいは身近な方の支援を考えているかのどちらかだと思います。最後に、この記事の要点を改めて整理します。

制度面の要点

  • 生活保護は、障害年金や障害者手帳の有無にかかわらず、生活に困窮していれば申請できる
  • 障害者加算、医療扶助、住宅扶助の特別配慮など、障害者向けの上乗せ支援がある
  • 障害年金との併用が可能で、年金では足りない部分を生活保護が補う
  • 就労支援施設(A型・B型・就労移行支援)の利用と生活保護の受給は両立できる

申請・手続きの要点

  • 申請は権利であり、窓口で断られても引き下がる必要はない
  • 支援者の同行は、申請をスムーズに進めるための最も効果的な手段
  • 書類が完璧に揃っていなくても申請自体は可能
  • 困ったら法テラス(0570-078-374)や基幹相談支援センターに相談する

生活保護を受けることは、権利の行使です。障害があるために十分な収入を得られない状況で、国の制度を利用することに後ろめたさを感じる必要はどこにもありません。

もし今この記事を読んで「自分も対象になるかもしれない」と思ったなら、まずは福祉事務所に電話してみてください。電話が難しければ、基幹相談支援センターや通院先の医療ソーシャルワーカーに「生活保護について相談したい」と伝えるだけで構いません。最初の一歩は、思っているよりも小さなもので十分です。

障害者支援専門家