障害者雇用促進法とは?法定雇用率・企業の義務・助成金・罰則まで網羅的に解説【2026年改正対応】
著者: フラカラ編集部
このコラムのまとめ
障害者雇用促進法の仕組みを、法定雇用率の計算方法から納付金制度、差別禁止・合理的配慮の義務、助成金、違反時の企業名公表制度まで網羅的に解説。2026年7月の雇用率引き上げや短時間労働者の算定見直しなど最新改正にも対応した、人事・経営者・当事者のための実務ガイドです。
障害者雇用促進法の目的と基本理念――なぜ「雇用義務」が存在するのか
障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)は、障害のある人が職業生活で能力を発揮し、経済的に自立することを後押しするための法律です。1960年に「身体障害者雇用促進法」として産声をあげ、半世紀以上にわたる改正を経て現在の形に至りました。
この法律の根幹にあるのは、障害のある人も「経済社会を構成する労働者の一員」であるという考え方です。国・自治体・企業の三者がそれぞれ雇用推進の責務を負うと同時に、障害者本人にも職業人としての自覚と能力開発が求められています。つまり、一方的に「保護する・される」関係ではなく、対等なパートナーシップが法律の前提にあるのです。
雇用政策専門家
60年以上の歴史――主要な改正をたどる
障害者雇用促進法は、社会の価値観の変化とともに対象範囲を広げてきました。制定当初は身体障害者のみが対象でしたが、1987年に知的障害者が加わり、2018年には精神障害者も法定雇用率の算定基礎に組み込まれています。
| 年 | 主な改正内容 |
|---|---|
| 1960年 | 「身体障害者雇用促進法」として制定。身体障害者の雇用努力義務を規定 |
| 1976年 | 法定雇用率制度と納付金制度を導入。企業の雇用義務が本格化 |
| 1987年 | 知的障害者を対象に追加し「障害者雇用促進法」に改称 |
| 2013年 | 障害者差別の禁止と合理的配慮の提供義務を明文化 |
| 2018年 | 精神障害者を法定雇用率の算定基礎に追加 |
| 2023年 | 法定雇用率の段階的引き上げ、短時間労働者の算定見直しを決定 |
こうして振り返ると、法律は「身体障害者の雇用努力義務」から「すべての障害者の雇用権利保障」へと、着実にギアを上げてきたことがわかります。
障害者総合支援法との違い――「一般就労」と「福祉的就労」の境界線
障害者の就労に関連する法律として、もうひとつ押さえておきたいのが障害者総合支援法です。名前が似ているため混同されがちですが、両者の守備範囲は明確に分かれています。
- 障害者雇用促進法:企業との雇用契約に基づく「一般就労」を規定。法定雇用率・納付金・合理的配慮など企業側の義務がメイン
- 障害者総合支援法:就労移行支援や就労継続支援(A型・B型)など「福祉的就労」を含む障害福祉サービス全般を規定
両法律は補完関係にあります。たとえば就労移行支援(総合支援法)で職業スキルを身につけた後、障害者雇用枠(雇用促進法)で一般企業に就職するといったステップが実務では一般的です。
障害者雇用促進法の対象――誰が「障害者」で、どの企業が雇用義務を負うのか
制度を正しく運用するには、「誰が対象者なのか」「どの企業が義務を負うのか」という2つの問いに正確に答えられる必要があります。
雇用率の算定対象となる障害者の範囲
障害者雇用促進法が定義する「障害者」とは、身体障害・知的障害・精神障害などにより、長期にわたって職業生活に制限を受ける方を指します。ただし、法定雇用率のカウント対象となるのは、原則として障害者手帳を所持している方に限られます。
| 区分 | 対象となる方 | 確認書類 |
|---|---|---|
| 身体障害者 | 1級〜6級の身体障害がある方 | 身体障害者手帳 |
| 知的障害者 | 知的障害があると判定された方 | 療育手帳等 |
| 精神障害者 | 統合失調症、うつ病、てんかん、発達障害等の方 | 精神障害者保健福祉手帳 |
障害者雇用コンサルタント
雇用義務が生じる企業の規模と範囲
障害者雇用促進法はすべての事業主に適用されますが、実際に雇用義務(法定雇用率の達成義務)が発生するのは一定規模以上の企業です。2026年3月時点では常時労働者40人以上の民間企業、国・地方公共団体、特殊法人等が該当します。
2026年7月の法定雇用率引き上げ(2.5%→2.7%)に伴い、対象は常時労働者37.5人以上の企業に拡大される予定です。自社が該当するかどうか、早めに確認しておく必要があります。
出典:
企業を支える支援制度と助成金――「義務」だけでは終わらない仕組み
障害者雇用促進法は企業に義務を課す一方で、その義務を果たすための支援制度も手厚く用意しています。「採用したいが何から始めればいいかわからない」という企業にとって、これらの制度は実務上の生命線と言えるでしょう。
職業リハビリテーション――当事者の「強み」を引き出す仕組み
職業リハビリテーションとは、障害のある方に対して職業指導・職業訓練・職業紹介などを一体的に提供し、職業生活の自立を支援するプロセスです。単に「障害に配慮した仕事を見つける」のではなく、本人の強みやポテンシャルに光を当てて、最大限活かせる職場と結びつけることが本質です。
職業カウンセラー
主な支援機関とその役割
ハローワーク
公共職業安定所(ハローワーク)は障害者雇用の最前線です。障害のある方への職業相談・紹介はもちろん、企業に対する求人条件の助言や採用後のフォローアップまで幅広く対応しています。全国544か所に専門相談員が配置されており、アクセスしやすい点も強みです。
障害者職業センター
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が運営する障害者職業センターは、より専門的な支援を提供します。職業評価、職業準備支援、ジョブコーチ(職場適応援助者)による職場定着支援などが受けられ、特に就職後の「定着フェーズ」で力を発揮します。
障害者就業・生活支援センター
就労面だけでなく、住まいや金銭管理、健康管理といった生活面もまとめてサポートする機関です。全国338か所に設置されており、「仕事は続けたいが、生活リズムが崩れがち」といった複合的な課題を抱える方に適しています。
企業が活用できる主な助成金
障害者雇用に関する助成金は、障害者雇用納付金制度を財源として複数用意されています。採用フェーズから定着フェーズまで段階に応じた支援が受けられるため、計画的に活用すれば費用面のハードルをかなり下げることが可能です。
- 特定求職者雇用開発助成金:ハローワーク等の紹介で障害者を雇い入れた事業主に対し、賃金の一部を一定期間助成。重度障害者の場合、助成額・期間が手厚くなる
- 障害者トライアル雇用助成金:原則3か月間の試行雇用に対して月額最大4万円(精神障害者は最大8万円)を支給。「本採用前に相互理解を深めたい」企業に好適
- 障害者雇用安定助成金:職場定着のための措置(メンター配置、勤務時間調整など)を講じた企業への助成
- 障害者作業施設設置等助成金:スロープや専用トイレの設置、就労支援機器の導入など作業環境の整備費用を助成
助成金は「知っている企業だけが得をする」制度とも言えます。自社で活用可能な助成金がないか、最寄りのハローワークやJEEDに早めに確認しておきましょう。
障害者雇用を「成功」に導くための実践ポイント
法律を守ることは出発点にすぎません。雇用した障害者が長く活躍し、企業も業績面のメリットを実感できて初めて「成功」と呼べます。ここでは、職場環境・社内理解・業務設計の三つの切り口から、実効性のあるアクションを整理します。
物理的・制度的な職場環境の整備
障害のある方が能力を発揮するには、物理的なバリアフリーだけでは不十分です。勤務時間や業務フロー、情報伝達の方法まで含めた「制度面のバリアフリー」が欠かせません。
- 段差解消・手すり・自動ドアなど物理的アクセシビリティの確保
- 写真やイラストを多用した業務マニュアルの整備(知的障害・発達障害への配慮)
- 音声読み上げソフトや拡大読書器などの支援技術の導入(視覚障害への配慮)
- 時差出勤や在宅勤務など、体調の波に対応できるフレキシブルな勤務形態の検討
社員の理解促進――「特別扱い」から「当たり前の多様性」へ
受け入れ部署の社員が障害に対して正しい知識を持っていないと、過度な遠慮やすれ違いが生じ、結果的に離職につながります。研修だけでなく、日常的なコミュニケーションの仕組みづくりが鍵です。
障害者就労支援専門家
障害特性に応じた配慮の具体例
身体障害のある方への配慮
車いす使用者であれば通路幅の確保やデスクの高さ調整、聴覚障害のある方には筆談ボードやチャットツールの活用、視覚障害のある方にはスクリーンリーダー対応のPC環境が有効です。身体障害は「見てわかる」ケースが多いため配慮が進みやすい一方、本人が遠慮して言い出せない細かな不便が蓄積しやすい点に注意が必要です。
精神障害・発達障害のある方への配慮
静かで刺激の少ない作業スペースの確保、明確かつ具体的な指示(曖昧な表現の排除)、定期的な短時間休憩の保障が基本です。特に精神障害のある方は「調子のよい時期」と「波が来る時期」の差が大きい場合があり、業務量の柔軟な調整がものを言います。
業務の選定と開発――「できる仕事」ではなく「強みが活きる仕事」を
「障害者向けの仕事がない」という声は多くの企業から聞かれます。しかし実際には、既存業務を棚卸しし、工程を細分化すると、障害のある方の強みと合致する業務が見つかることがほとんどです。
たとえばデータ入力やスキャン作業の正確さが際立つ方、ルーティンワークを高い集中力で長時間こなせる方、細部の変化に気づく品質チェック能力に優れた方など、障害特性が「武器」になるシーンは少なくありません。「何ができないか」ではなく「何が得意か」を起点に業務を設計する視点が、長期的な雇用成功への近道です。
2023年改正と2026年7月施行の最新動向
障害者雇用促進法は数年おきに改正されます。企業の人事担当者が直近で押さえておくべきポイントは大きく2つ――法定雇用率の引き上げと、短時間労働者の算定見直しです。
法定雇用率の段階的引き上げスケジュール
民間企業の法定雇用率は、以下のとおり段階的に引き上げられます。
| 適用時期 | 法定雇用率 | 対象企業(常時労働者数) |
|---|---|---|
| 2023年〜2024年3月 | 2.3% | 43.5人以上 |
| 2024年4月〜2026年6月 | 2.5% | 40人以上 |
| 2026年7月〜 | 2.7% | 37.5人以上 |
2026年7月以降、たとえば常時労働者38人の企業は「38 × 2.7% = 1.026」で1人の障害者雇用義務が生じます(小数点以下切り捨て)。従来は対象外だった企業が新たに義務の範囲に入るため、早めの準備が不可欠です。
出典:
短時間労働者の算定見直し
2024年4月から、週10時間以上20時間未満で働く重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者が、実雇用率に0.5人分として算定できるようになりました。「フルタイムは難しいが、短時間なら安定して働ける」という方の雇用機会が広がる画期的な改正です。
雇用政策研究者
出典:
テレワーク・AI活用など今後の展望
コロナ禍をきっかけに広がったテレワークは、障害者雇用の地図を塗り替えつつあります。通勤が大きなハードルだった身体障害のある方や、オフィスの騒音や対人刺激がストレス源となっていた精神障害・発達障害のある方にとって、在宅勤務は「配慮」ではなく「最適な働き方」です。
さらにAI音声認識や視線入力デバイスの進歩により、重度障害のある方が企業の戦力として活躍する事例も出始めています。法制度のアップデートとテクノロジーの進化が掛け合わさることで、障害者雇用の可能性は今後一段と広がっていくでしょう。
企業に課せられる主な法的義務
障害者雇用促進法は、企業に複数の義務を課しています。「知らなかった」では済まされない項目ばかりですので、人事・労務担当者は一つずつ確認しておきましょう。
企業が法律に基づいて果たすべき、主要な3つの義務を以下にまとめました。
それぞれの義務について詳しく解説します。
法定雇用率の達成義務
企業は常時労働者数に法定雇用率を乗じた人数(小数点以下切り捨て)の障害者を雇用しなければなりません。
| 雇用すべき障害者数 = 常時労働者数 × 法定雇用率(小数点以下切り捨て) |
2026年3月時点の民間企業の法定雇用率は2.5%です。同年7月には2.7%へ引き上げられます。常時労働者には週20時間以上のパート・アルバイトも含まれるため、カウント漏れに注意してください。
障害者雇用納付金制度
法定雇用率を達成できていない企業(常時労働者100人超)は、不足1人につき月額5万円の納付金を徴収されます。逆に、法定雇用率を超過して障害者を雇用している企業には、超過1人につき月額2万7千円の調整金が支給される仕組みです。
人事コンサルタント
差別禁止と合理的配慮の提供義務
2016年の改正施行以降、企業は障害を理由とする不当な差別的取扱いが禁止されるとともに、障害のある方が職場で力を発揮できるよう合理的配慮を提供する義務を負っています。合理的配慮の具体例としては、試験時間の延長、手話通訳者の配置、業務指示の文書化、通院のための勤務時間調整などが挙げられます。
「何が合理的配慮に当たるのか」は一律に定まるものではなく、本人との対話を通じて個別に決定されます。企業側に「過重な負担」が生じる場合は配慮の内容を調整できますが、その際も代替手段を検討する姿勢が求められます。
報告義務と相談員の選任
- 毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告する義務(6月1日報告)
- 障害者を5人以上雇用する事業所では「障害者職業生活相談員」を選任する義務
- 障害特性に配慮した施設・設備の整備努力義務
法定雇用率未達成・法令違反時に企業が受ける措置と罰則
「納付金を払えば済む」と誤解されがちですが、障害者雇用促進法には納付金以上の厳しい措置が段階的に用意されています。企業の信用に直結するリスクを正しく認識しておくことが、コンプライアンスの第一歩です。
納付金の徴収と雇入れ計画作成命令
障害者雇用納付金
法定雇用率を達成できていない企業(常時労働者100人超)には、不足する障害者1人につき月額5万円の納付金が課されます。年間に換算すると、不足3人の企業で年間180万円の負担です。
雇入れ計画の作成命令
実雇用率が全国平均を大きく下回り、不足数が5人以上に達するなど改善が著しく遅れている企業には、ハローワーク所長から「障害者雇入れ計画」の作成命令が出されます。計画期間は原則2年間で、その間にハローワークの定期的な指導が入ります。
障害者雇用コンサルタント
企業名公表制度――最大のレピュテーションリスク
雇入れ計画を策定しても改善が見られない企業に対しては「特別指導」が行われ、それでも状況が改善しない場合、厚生労働大臣が企業名を公表します。公表は厚生労働省のWebサイトや報道を通じて広く周知されるため、採用ブランドや取引先からの信頼に深刻な打撃を与えかねません。
その他の罰則規定
障害者雇用状況の報告義務違反や虚偽報告には、30万円以下の罰金が科される可能性があります。助成金を不正に受給した場合は、全額返還に加えて受給額の2割に相当する額の追加納付が求められます。
こうした措置は「罰を受けないために雇用率を満たす」という消極的な動機に見えるかもしれません。しかし実際には、企業名公表を避けるために急いで採用した結果、ミスマッチが生じて早期離職するケースも少なくありません。罰則を意識するだけでなく、計画的・主体的に雇用を進めることが、企業にとっても障害のある方にとっても最善の結果をもたらします。
まとめ:障害者雇用促進法を「義務」から「戦略」へ転換するために
障害者雇用促進法は、障害のある方の職業的自立と企業の社会的責任を同時に実現するための枠組みです。法定雇用率・納付金・合理的配慮・企業名公表制度など、企業が押さえるべきルールは多岐にわたりますが、これらを「コスト」や「リスク回避」としてだけ捉えるのはもったいない見方です。
業務を切り出す過程で生産性の改善点が見つかる、多様な視点が製品やサービスの質を高める、組織のインクルーシブな文化が採用ブランドを強化する――障害者雇用に真剣に取り組んだ企業が得る副産物は決して小さくありません。
人事ディレクター
まずは自社の雇用率を確認し、活用可能な助成金と支援機関を洗い出すところから始めてみてください。一歩ずつ着実に取り組むことが、企業と障害のある方の双方にとって持続可能な未来をつくります。