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「何度言ったらわかるの?」をゼロにする。自閉症児のためのTEACCH(ティーチ)流・おうちの構造化ガイド

「何度言ったらわかるの?」をゼロにする。自閉症児のためのTEACCH(ティーチ)流・おうちの構造化ガイド

著者: フラカラ編集部

このコラムのまとめ

「何度言ったらわかるの?」が口癖になっていませんか?ASD児が口頭指示で動けないのはわがままではなく、脳の処理スタイルの違いが原因です。本記事ではTEACCH流・構造化の4つの柱をもとに、朝の支度や片づけなど場面別の実践レシピ、100均で作れる絵カードやスケジュールボードの作り方、うまくいかないときの立て直し方まで丁寧に解説します。

おうち構造化の4つの柱──TEACCH流フレームワーク

「構造化」と聞くと、専門施設だけで行う難しい手法に感じるかもしれません。しかし実際には、家庭のリビングや子ども部屋でこそ威力を発揮する、シンプルな「環境づくり」のことです。

ASD児は「今、何が起きているか」「この後、何が起きるか」「自分は何をすればいいか」が明確に整理されていないと混乱しやすく、不安からパニックにつながることもあります。そこで生活環境を「見てわかる」ように整えるのがTEACCHの「構造化」です。構造化は大きく次の4つの柱で構成されており、それぞれ家庭でもすぐに取り入れることができます。ここからは各柱の基本と、家庭での活かし方を見ていきましょう。

おうち構造化の4つの柱

①物理的構造化:場所に「意味」を持たせる

「ここでは何をする場所か」を空間そのもので伝える方法です。勉強机の周りにはおもちゃを置かず、パーテーションで視界を遮ります。「ここは勉強だけをする場所」「あちらは遊ぶ場所」と空間の役割を分けることで、集中力が劇的に上がります。「何度言っても遊び始める」場面の多くは、今この場所で何を求められているかが伝わっていないことが原因です。

狭い家でも、カラーテープで床に境界線を引く、カラーボックスを仕切り代わりにする、色の違うラグを敷くといった工夫で十分にエリア分けが可能です。マスキングテープなら賃貸でも手軽に始められます。

②スケジュールの視覚化:時間を「見える」ようにする

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、時間の概念を理解することが難しく、自分から先のことを見通すこと、先を想像することに困難があり、「Here and Now」(いま、ここ)の世界に生きています。そのため、前もって何が起こるか、何をすればいいかがわからないと不安やパニックに陥りがちです。1日の流れを視覚的に提示することが有効です。

写真やイラストのカードを順番にボードに貼り、終わったら自分で外すルールにすると、何が終わり何が残っているかが一目でわかります。子どもの理解度に応じて、写真→イラスト→文字と形式を選べるのもポイントです。最後に子どもが楽しみにしている活動を入れておくと、見通しがモチベーションに変わります。

③ワークシステム:やることを「手順化」する

スケジュールが「いつ・何をするか」を示すのに対し、ワークシステムは「どうやって・どこまでやるか」を伝える仕組みです。ポイントは「何を」「どれだけ」「どの順番で」「終わったら何があるか」の4点を明確にすること。ASD(自閉スペクトラム症)のある人々が、教室や作業所で不適応行動(かんしゃく、暴れるなど)を起こす場合、上記のようなことが整理されていないために、困惑や混乱をしている場合があります。逆に先の見通しが立ち、何を期待されているか、できるのかがわかるだけで安心を与えることができます。

例えば、机の左側に課題を入れた棚を置き、終わったら右の箱に移します。最後にご褒美カードを入れておけば、ゴールが見えるため自立して取り組めるようになります。

④視覚的構造化:情報を「わかりやすく整理」する

他の3つの柱すべてに横断的に関わる、構造化の"共通言語"ともいえる手法です。自閉症のお子さんは、目に見えない「時間」や「言葉の指示」を理解するのが苦手な一方で、「目で見た情報(視覚情報)」を処理するのは非常に得意です。この強みを活かし、家庭のあらゆる場面に「見ればわかる手がかり」を散りばめていきます。

具体的には、おもちゃ箱に「ブロック」「ミニカー」の写真を貼って片付ける場所を明示したり、兄弟で使うタオルの色を分けたりして、目で見てすぐに判断できるようにします。引き出しや棚に中身を示す「ラベリング」も代表的な手法です。「何度言ったらわかるの?」の多くは、環境に"答え"を埋め込むだけで解消できます。声かけを減らした分だけ、親子の会話に笑顔が増えていきます。

【場面別】「何度言っても…」が消える!おうち構造化の実践レシピ

4つの柱を理解したところで、いよいよ実践編です。家庭で「何度言っても動かない」が起きやすい6つの場面を取り上げ、構造化でどう解決できるかを紹介します。すべてを一度に取り入れる必要はありません。一番困っている場面からひとつ選んで試してみてください。

朝の支度が進まない → 「じゅんばんボード」で声かけゼロに

やるべきことを絵カードにしてボードに順番に貼り、終わったら「おわった」列に自分で移動させます。最後のカードに好きなテレビやおやつなどお楽しみを入れておくと、見通しがモチベーションに変わります。

食事中に立ち歩く → テーブル周りの物理的構造化で集中できる環境へ

テレビやおもちゃを視界から排除し、子ども専用の食器を色で統一して「この色がそろったら食事の時間」という視覚的な合図にします。席にはイスに名前カードやシールを貼り、「ここが自分の場所」と認識させましょう。

宿題に取りかかれない → ワークシステムと「終わったらカード」で見通しを

机の左側にやる課題を入れた棚を置き、終わったら右の箱に移す仕組みを作ります。最後の棚に「ゲーム15分」などのご褒美カードを入れておけば、ゴールが見えるため自分から取りかかれるようになります。

お風呂・歯みがきを嫌がる → 手順カードとタイマーの合わせ技

「いつ終わるかわからない不安」が嫌がる原因です。手順を写真カードで分解し、各ステップに砂時計やタイマーを組み合わせます。「砂が落ちたら終わり」と感覚的にゴールが見えるため、不安が大幅に軽減されます。防水ラミネートで加工すれば水回りでも使えます。

片づけができない → 写真ラベル×定位置で"見ればわかる"収納

おもちゃ箱に中身の写真を貼り、「同じ写真のところに戻す」ルールにします。「片づけなさい」という曖昧な指示が不要になり、子どもが自分で判断して動ける環境が整います。

予定変更でパニックになる → 「変更カード」と予告の仕組み

星や雷マークなど目立つデザインの「へんこうカード」を用意し、予定が変わるときにスケジュールボードに貼ります。差し替え用の空白カードで新しい予定を提示すれば、変更後も見通しが途切れません。おやつの種類が変わる程度の小さな変更から練習し、「変わっても大丈夫だった」という成功体験を積み重ねることが大切です。

TEACCH(ティーチ)とは?「自閉症の文化を尊重する」支援の考え方

ここまで構造化の具体的な方法を紹介してきましたが、「そもそもTEACCHって何?」と疑問に思った方もいるかもしれません。ここでは構造化の土台となるTEACCHプログラムの理念と、家庭で取り入れるべき理由を整理します。

TEACCHプログラムの基本理念と世界的評価

TEACCHとは、米ノースカロライナ州で1972年以来行われているASD(自閉スペクトラム症)の当事者とその家族を対象とした生涯支援プログラムです。最大の特徴は、自閉症の特性を「障害」ではなく「自閉症の文化」(Culture of Autism)として肯定的に捉える点にあります。

無理に世間の常識に合わせるのではなく、周囲の環境のほうを本人にとってわかりやすい形に整えていく──外国から来た方に身振り手振りで歩み寄るのと同じ発想です。この理念は現在、日本を含む世界中の療育現場に広がっています。

療育施設だけのものではない──家庭でこそ活きる理由

TEACCHの重要な特徴のひとつに「親は共同療育者」という考え方があります。子どもが一番長く過ごす場所は家庭であり、困りごとが発生するのも朝の支度や食事、片づけといった日常の場面です。さらに、子どもの特性を最もよく知っているのは保護者自身。構造化に特別な資格や高額な道具は不要で、100均の材料があれば今日から始められます。「環境のほうを変える」という発想は、専門施設よりもむしろ毎日の暮らしの中でこそ真価を発揮するのです。

構造化=「目で見てわかる仕組みづくり」というシンプルな原則

TEACCHの理念を家庭で実践する中心的な手法が「構造化」です。ASD児は耳からの情報が一瞬で消えてしまう一方、目で見た情報は自分のペースで何度でも確認できます。この強みを活かし、口で言っていた指示を目で見てわかる仕組みに置き換えることが構造化の本質です。

環境が整理されると心理的にも安定し、活動や学習に参加できるようになります。構造化は子どもを管理するためのものではなく、子どもが自分の力で動ける環境を整え、安心と自信を育むための支援です。

今日から始める!構造化グッズの作り方と入手方法

構造化の考え方はわかった、でも「グッズを準備するのが大変そう…」と感じていませんか?実は100均で手に入る材料だけで、今日から使えるグッズが作れます。ここでは「手作り」「アプリ」「市販品」の3つのルートを紹介します。

100均素材で作れる絵カード・スケジュールボードの手順

用意するのは名刺サイズの用紙、手貼りラミネートフィルム、マグネットシート、ホワイトボードだけ。すべて100均でそろいます。カードにイラストを描くか写真を貼り、ラミネートで保護して裏にマグネットを貼れば完成です。ボードに「やること」「おわった」の2列を作り、カードを並べましょう。

イラストは「1枚に1つの意味」が鉄則です。情報が多いと混乱するため、背景は白のまま、シンプルな絵と原色を基本にしてください。絵が苦手な方は「絵カードメーカー」などの無料サイトからダウンロードして印刷する方法もあります。

手書きが苦手な人向け:無料イラスト素材・アプリの活用法

外出先では、絵カードに音声読み上げ機能のついているスマホアプリを使うのが効果的です。古林療育技術研究所の「コバリテ・コミュニケーション」は350種類以上のイラストとカード文字の編集機能を備えており、家庭に合わせたカスタマイズが可能です。家ではカードとボード、外出先ではアプリと使い分けるのがおすすめです。

市販の視覚支援グッズおすすめ3選

「手作りする時間がない」「今すぐ欲しい」という方には市販品が便利です。日常生活をカバーする108種類の「アドプラスオリジナル絵カード」、テーマ別に60枚ずつ選べる「PriPri発達支援絵カードシリーズ」、そして使い方の事例集から必要なセットだけ購入できる「ソーシャルスキルトレーニング絵カード」が代表的な選択肢です。

手作り・アプリ・市販品のどれが正解ということはありません。大切なのはお子さんの理解度や好みに合っていること。完璧なグッズを用意しようとして動けなくなるよりも、まずは紙に手書きした絵カードを1枚、冷蔵庫に貼ってみるところから始めてみましょう。

構造化はずっと続けなきゃいけない?通過点とするためのプロセス

「構造化って、ずっと続けなきゃいけないの?」と疑問に思った方もいるかもしれません。構造化の最終ゴールは「支援なしでも自分で動ける力を育てること」です。絵カードやボードはゴールではなく、自立に向かうための補助輪。子どもの成長に合わせて少しずつ手放していくことが大切です。

支援の量を少しずつ減らす「フェーディング」の考え方

支援を段階的に薄くする手法を「フェーディング」と呼びます。自転車の補助輪を外すように、子どもの習熟度に合わせて手がかりを減らしていくイメージです。進め方は3段階で考えるとスムーズです。

①情報の抽象度を上げる:実物の写真→シンプルなイラスト→文字カードへと、カードの形式を徐々に移行します。

②手がかりの数を減らす:すでに習慣化された行動のカードから1枚ずつ外していきます。カードを外す際は「もうこれはカードなしでできるね!」と卒業式のように前向きなイベントにすると、子どもの達成感につながります。

③本人に管理を任せる:親がセットしていたスケジュールボードを子ども自身が準備する習慣へ移行します。完全にカードを撤去するのではなく引き出しにしまい、必要なときに本人が取り出せるようにしておくと安心です。

フェーディングで最もよくある失敗は、うまくいっているからと一度に多くの支援を外してしまうこと。子どもが安定しているのは支援があるからこそです。1つ外したら1〜2週間は様子を見るくらいの慎重さでちょうどよいでしょう。

構造化で変わった親子のビフォーアフター体験談

ある小1の男の子は、夏休みの学童保育初日に「ママはまだ?」と泣いて過ごしました。口頭で「1日学童だよ」と伝えただけだったのが原因です。翌日、1日の流れを絵つきのメモにして持たせたところ、全く泣かずに過ごせたそうです。途中で学校の水泳に行く日でしたが、張り切って参加できたと聞きました。

たった1枚の見通しカードが、泣いていた子どもを笑顔に変えた──。構造化がゴールではなく通過点であること、そして親がしてあげられる最大のプレゼントは「自分でできた!」と感じられる環境を用意することだと教えてくれるエピソードです。

「何度言っても伝わらない」のは、子どものわがままや怠けではない

「何回言えばわかるの!」──毎日この言葉を繰り返し、あとから自己嫌悪に陥る。そんな経験はありませんか?先にお伝えします。お子さんが口頭の指示で動けないのは、わがままでも怠けでもありません。ASD(自閉スペクトラム症)の脳の処理スタイルが関係しています。

自閉症児が口頭指示だけでは動けない脳の理由

ASD児の多くは「視覚優位」という認知スタイルを持ちます。言葉による情報は発した瞬間に消えてしまい、何度聞いても定着しにくい一方、目で見る情報は自分のペースで繰り返し確認できます。つまり親が一息で伝えた3つの指示は、ASD児の脳では発せられた瞬間に流れ去る"一瞬の音"に過ぎないのです。「何度言ってもやらない」の正体は、子どもの意思の問題ではなく情報の届け方の問題です。

叱る回数が増えるほど親子関係が壊れていく悪循環

口頭で指示→動けない→強い口調で叱る→萎縮・パニック→親の自己嫌悪と子の自己肯定感低下→翌日も同じことが繰り返される。この悪循環の根本は、環境が変わらない限り同じ結果が出続けるという点にあります。子どもの脳の処理スタイルは叱っても変わりません。変えるべきは子どもではなく、情報の届け方のほうです。

「環境を変える」だけで子どもが自分から動き出すという発想転換

口頭の指示をスケジュールボードや写真ラベルなど「目で見てわかる仕組み」に置き換えると、子どもはカードを見て自分から動き出します。親は叱る代わりに「自分でできたね!」と褒める側に回れるため、子どもの自己肯定感が上がり、翌日はさらにスムーズに──。叱る声を仕組みに置き換えるだけで、悪循環がそのまま好循環に反転するのです。「何度言ってもわからない」と感じたら、子どもは「わからない」のではなく「届いていない」だけ。伝え方を口頭から視覚に切り替える一歩が、親子の笑顔への入り口になります。

構造化がうまくいかないときの原因と立て直し方

スケジュールボードを作った、絵カードも用意した──それなのに子どもが使ってくれない。そんなとき、「うちの子には合わない」と諦めたくなるかもしれません。しかしうまくいかない原因のほとんどは「仕組みの調整不足」です。子どもに合わないのではなく、合わせ方がまだ見つかっていないだけです。

子どもがカードやボードを無視する・嫌がる場合の対処法

写真のほうがわかりやすい子にイラストを渡していたり、情報量が多すぎたりしていないか確認しましょう。カードを突然渡すのではなく、まずは「おやつ」など好きな活動のカードから導入し、「カード=いいことの合図」という経験を積ませると拒否感が和らぎます。嫌がるときは無理強いせず、一緒に作るなどの工夫で愛着を持たせることも有効です。

きょうだいがいる家庭でのバランスの取り方

きょうだいに「特別扱い」と映らないよう、家族みんなが使う仕組みにするのがコツです。きょうだいにもシンプルなチェックリストを用意したり、「カード作りのお手伝い係」を任せたりすると疎外感が参加意識に変わります。きょうだいの「できていること」を意識的に言葉にすることも忘れないでください。

家族(パートナー・祖父母)の理解と協力を得るコツ

「甘やかしすぎ」という反対意見には、正論で説得するより小さな変化を見せるほうが効果的です。朝の支度ボードなどわかりやすい場面から始め、「叱る回数が減った」という事実を共有しましょう。療育の先生から家庭での構造化の大切さを伝えてもらうのも有効です。

完璧を目指さない──「1カ所・1場面」から始めるスモールステップ

いきなり家中を構造化しようとするのは、続かなくなる最大の原因です。最も困っている1場面に絞り、カード3枚とボード1枚の最小構成で始めましょう。うまくいかないと感じたときは「この子にはダメだった」ではなく「この方法がまだフィットしていないだけ」と捉え直し、カードの形式や枚数を少しずつ調整してみてください。

まとめ:叱る言葉を「仕組み」に置き換えれば、親子の笑顔が増える

「何度言ってもわからない」の正体は、子どもの問題ではなく情報の届け方の問題です。口頭の指示を目で見てわかる仕組みに置き換えるだけで、叱る必要そのものがなくなります。

TEACCHの構造化は、特別な資格も高額な道具も必要ありません。最も困っている1場面を選び、絵カード3枚とボード1枚から始めてみてください。小さな仕組みが「何度言ったらわかるの?」を「自分でできたね!」に変え、親子の笑顔を増やす第一歩になります。

参考: