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刑務所から福祉へ|障害のある罪を犯した人を社会で支える「地域生活定着支援センター」の役割とは

刑務所から福祉へ|障害のある罪を犯した人を社会で支える「地域生活定着支援センター」の役割とは

著者: フラカラ編集部

監修: 中村 啓吾

このコラムのまとめ

障害のある罪を犯した人の社会復帰を支える「地域生活定着支援センター」の役割を解説。コーディネート・フォローアップ・相談支援の3つの業務内容や支援の流れ、具体的な事例、受け入れ先の不足などの課題まで詳しく紹介。刑務所から福祉へつなぐ仕組みと、再犯防止に向けた共生社会のあり方を考えます。

地域生活定着支援センターとは?設立の経緯と目的

全国的に受刑者数は減少傾向にあるにもかかわらず、再犯者数は減っていません。こうした背景の中で、刑務所と福祉をつなぐ「橋渡し役」として誕生したのが地域生活定着支援センターです。

刑務所を出ても行き場のない人たちの存在

障害のある受刑者の多くが、福祉の制度やサービスをよく理解しておらず、福祉的支援を拒否する人も見られます。軽微な犯罪を繰り返している再犯者の中には、子どもの頃からずっと障害を見過ごされてきた人もいます。貧困に陥ることも多く、犯罪の内容も万引きや無銭飲食など、所持金がないことが原因になっている場合が多く見られます。

かつては、障害者が逮捕されると福祉支援者が手を引き、司法も出所後は放置してしまうという状況が続いていました。この深刻な「制度の狭間」を埋めるために設立されたのが、地域生活定着支援センターです。

設立の経緯|福祉専門官の配置からセンター設置へ

平成21年度から、全国的に刑務所に福祉専門官が配置され、出所後の生活を支えるための福祉的支援が行われるようになりました。これと同時期に、出所後の地域生活を支援する拠点として、地域生活定着支援センターが各都道府県に設置されていきました。

設立の大きなきっかけとなったのは、2006年頃から注目された「累犯障害者」の問題です。法務省と厚生労働省が連携し、矯正施設を出所する高齢者や障害者を福祉サービスにつなぐ仕組みとしてセンターが制度化されました。

センターの目的と設置状況

都道府県の地域生活定着支援センターでは、支援を必要とする人に、釈放後の生活に向けた住居や福祉、医療他サービス等の連絡調整を行っています。現在は全国48か所に拠点が置かれ、すべての都道府県をカバーしています。

また、令和3年度からは、刑事司法手続の入口段階にある被疑者・被告人等で高齢又は障がいにより自立した生活が困難な人に対する支援も開始されました。刑を科すことだけでは再犯防止にならないとの認識のもと、センターの支援対象は逮捕・起訴の段階にまで広がっています。

出典:

地域生活定着支援センターの3つの業務内容

地域生活定着支援センターの業務は、「コーディネート業務」「フォローアップ業務」「相談支援業務」の3つで構成されています。それぞれの内容を見ていきましょう。

コーディネート業務|出所前から福祉サービスにつなぐ

保護観察所からの依頼に基づき、矯正施設入所者を対象として、退所後に必要な福祉サービスのニーズ内容を確認し、事業所等のあっせんや申請支援を行います。具体的には、支援対象者との面談・アセスメントの実施、「福祉サービス等調整計画」の作成、障害者手帳や生活保護の申請支援、受け入れ先の選定・確保など、出所後の生活基盤を総合的に調整する役割です。

フォローアップ業務|出所後の地域生活を継続的に支える

コーディネート業務により矯正施設退所者を受け入れた事業所に対し、必要な助言等を行います。受け入れ先へのモニタリングや処遇面の助言、定期的なケア会議の実施、保護観察所との連携などを通じて、出所者の地域生活が安定するよう継続的に支えます。

相談支援業務|本人・関係機関からの相談に対応する

矯正施設から退所した対象者の福祉サービス等の利用に関して、本人やその関係者からの相談に応じ、助言その他必要な支援を行います。すでに退所した方だけでなく、親族や弁護士、支援者等からの相談にも幅広く対応している点が特徴です。

地域生活定着支援センター_3つの柱

刑務所出所から地域生活へ|支援の具体的な流れ

実際の支援はどのような流れで進むのでしょうか。刑務所入所中から出所後までの流れを段階ごとに見ていきます。

ステップ1|刑務所内での対象者選定

平成21年度から刑務所に配置された福祉専門官が、支援が必要な受刑者の課題を分析します。「特別調整」の対象者は、高齢または障害があること、釈放後の住居がないこと、福祉サービスの必要性が認められることなど、すべての条件を満たす必要があります。障害者手帳の有無は条件に含まれていません。

ステップ2|関係機関との連携と計画作成

対象者が選定されると、保護観察所を通じてセンターへ正式に依頼が届きます。センターは本人との面談・アセスメントを実施し、「福祉サービス等調整計画」を作成します。住民票の設定、障害者手帳の取得、生活保護の申請準備、受け入れ先の確保など、出所後の生活基盤に必要な調整を進めていきます。ただし、特別調整には刑期満了から遡って6か月以上の期間が必要であり、残りの刑期が短い場合は刑務所が直接調整する「独自調整」が行われます。

ステップ3|出所当日からの生活移行

出所当日にはセンター職員が矯正施設に同行し、受け入れ先への引き継ぎを行います。その後、生活保護の申請や福祉サービスの利用開始といった各種手続きを進め、地域の相談支援事業所等への橋渡しを経て、長期的な支援体制へと移行していきます。

支援の現場から見える事例と成果

制度の意義をより実感するために、支援がなかった場合と支援が機能した場合の事例を見ていきましょう。

支援がなかったために再犯に至ったケース

軽度知的障害のある少年Tは、少年院を退院後、建設会社に就職しました。しかし「指示を聞いた時には覚えていても、作業時には忘れている」「手先がとても不器用」という特性が災いし、職場に適応できず解雇されてしまいます。その後、行き場を失い詐欺グループに取り込まれた末、殺人事件を起こしてしまいました。障害特性に理解のある職場と、困った時に頼れる支援者がいれば、この悲劇は防げた可能性があります。

福祉施設が積極的に受け入れている事例

一方、東京都にある社会福祉法人では、触法障害者の受け入れに関して、東京都の地域生活定着支援センターと連携して出所者の支援にあたっています。同法人が重視するのは触法障害者を理解しながら、信頼関係を構築することです。

再犯を防止することだけを目的とした支援は、触法障害者本人にとって居心地のよい場所にはなりません。支援の中でお互いを尊重しあいながら理解していくことが、結果的に再犯防止につながっていくと考えています。

社会福祉法人職員

この事例が示すのは、「再犯させない」という管理的な発想ではなく、一人の人間としての生活を支えることこそが、真の再犯防止につながるという点です。

地域生活定着支援センター以外の関連支援機関・制度

障害のある出所者の地域生活を支えるのは、センターだけではありません。複数の機関・制度が連携することで、支援の効果は高まります。主な関連機関を紹介します。

保護観察所・更生保護施設

保護観察所は出所後の指導や支援の総合窓口であり、センターへの支援依頼もここを通じて行われます。更生保護施設は、身寄りのない人や帰るべき住居がない出所者が一時的に生活できる施設で、福祉施設につながるまでの重要な「つなぎの場」として機能しています。

ハローワーク・更生保護就労支援事業

ハローワークでは出所者専用の非公開求人を扱っており、必要に応じた職業訓練も可能です。また、就労が特に困難な出所者に対しては、国委託の更生保護就労支援事業による就職支援も利用できます。

障害者相談支援事業所

センターの支援は出所者を地域の支援機関へつなぐところまでが中心的な役割です。その後の長期的な生活支援を担うのが障害者相談支援事業所であり、就労や健康、経済面など生活全般にわたる相談に対応しています。

生活保護制度・生活困窮者自立支援制度

出所時にほとんど所持金がない方の生活を経済面から支えるのが、生活保護制度と生活困窮者自立支援制度です。センターでは出所前からこれらの申請準備を行い、出所後すみやかに経済基盤が確保されるよう調整しています。

孤立させない社会へ|再犯防止と共生社会の実現に向けて

制度や支援機関がいくら整っても、障害のある出所者を受け入れる地域社会の理解がなければ、真の社会復帰は実現しません。再犯防止と共生社会の実現に向けて、いま求められる視点を考えます。

「罰」から「支援」への転換

刑務所への入所回数が二桁に上る人もいて、刑を科すことだけでは再犯防止にならないことは明らかです。安心して暮らせる環境と安定した収入、必要な福祉サービスがあれば、二度と犯罪を起こさない人もいます。「罰」ではなく「支援」によってこそ、再犯の連鎖を断ち切れるケースは少なくありません。

地域の理解と受け入れ体制の拡大

地域で触法障害者等を受け入れるためには、地域とつながり、一緒に何ができるのか考えていくことが重要です。触法障害者等の問題は、顕在化すると理解者とともに排除しようとする人も増えるのが現実であり、地域の人が理解し考える時間も必要です。

予防的な関わりの重要性

犯罪が起きた後の支援だけでなく、起きる前の予防にも力を入れることが大切です。学校教育の段階での障害の早期発見、孤立しがちな人が安心できる居場所づくり、福祉・教育・司法の連携によるネットワーク構築など、支援から零れ落ちる人をなくす取り組みが求められています。

なぜ「刑務所から福祉へ」の支援が必要なのか

ここまでセンターの役割や支援の成果を見てきましたが、そもそもなぜ「刑務所から福祉へ」の支援が必要なのでしょうか。その背景にある構造的な問題を整理します。

減らない再犯と見過ごされてきた障害

全国的に受刑者数は減少傾向にあるにもかかわらず、再犯者数は減っていません。繰り返し収監される障害者の多くは、生活苦から万引きや無銭飲食を繰り返しています。その中には子どもの頃から障害を見過ごされ、何度も挫折を経験し、自己肯定感を失ってしまった人も少なくありません。

刑務所の方が「居心地がよい」という現実

知的障害発達障害のある人の中には、すべてが決められた刑務所の方が暮らしやすいと感じる人もいます。しかし収監を重ねるうち家族や支援者から見放され、犯罪への心理的ハードルが下がっていきます。これは社会の福祉制度が十分に機能していないことの裏返しです。

「司法」と「福祉」の狭間に落ちる人たち

かつては障害者が逮捕されると福祉支援者が手を引き、司法も出所後は放置するという状態が長く続いていました。この制度の狭間を埋め、司法の出口から福祉の入口へ確実につないでいくことこそが、「刑務所から福祉へ」の支援が目指す最大の目標なのです。

地域生活定着支援センターが抱える課題

センターは大きな成果を上げてきましたが、現場ではさまざまな課題にも直面しています。主な課題を整理します。

受け入れ先の不足

障害があるにもかかわらず、本来入所が望ましい障害者支援施設に入れる出所者は少なく、更生保護施設や無料低額宿泊所につなげることが多いのが現状です。福祉施設側の理解が進まず、特に性犯罪を犯した出所者の受け入れ先確保は困難を極めます。

本人の同意と時間的制約

福祉的な支援には本人の同意が必要ですが、対人不信感の強さや福祉への誤解から同意が得られないケースも多くあります。また、特別調整には刑期満了から遡って6か月以上が必要ですが、福祉専門官に話が届いた時点で残りの刑期が短い場合も多く、十分な調整ができないまま出所を迎えることがあります。

入口支援の拡大と制度の狭間

令和3年度から被疑者・被告人等への入口支援が開始され、業務量は大幅に増加しました。さらに、既存の制度の対象外だが支援が必要な「制度の狭間」の人への対応も課題です。支援対象の拡大に見合った人員・予算の体制強化が求められています。

まとめ|地域生活定着支援センターは「刑務所と福祉の橋渡し役」

地域生活定着支援センターは、障害や高齢により自立が困難な出所者に対し、コーディネート業務・フォローアップ業務・相談支援業務の3つを柱に、釈放後の生活に向けた住居や福祉、医療他サービス等の連絡調整を行っています。

受け入れ先の不足や本人の同意が得られない難しさなど課題は残りますが、適切な支援があれば二度と犯罪を起こさない人もいるのです。あの人に支援が届いていれば、罪を犯さなかったかもしれない——この思いを胸に、センターは刑務所と福祉の橋渡しを続けています。