「わがまま」ではなく「脳の特性」。自閉症の子どもが学校生活で感じる生きにくさと、親ができる心のケア
著者: フラカラ編集部
監修: 中村 啓吾
このコラムのまとめ
自閉症の子どもの行動は「わがまま」ではなく脳の特性によるものです。本記事では、学校生活で感じる7つの生きにくさや子どものSOSサインの見分け方、家庭を安全基地にする関わり方、合理的配慮の求め方、親自身のセルフケアまで詳しく解説。一人で抱え込まず、子どもの「自分らしさ」を守るためのヒントをお届けします。
「わがままな子」と誤解される自閉症の子どもたち
「どうしてうちの子は、みんなと同じようにできないんだろう」――そんな思いを抱えている親御さんは少なくありません。学校で「わがまま」「自分勝手」と見なされてしまう行動の多くは、実は自閉スペクトラム症(ASD)という脳の発達特性に起因するものです。まずは、その特性を正しく理解することから始めましょう。
親ができる心のケア──家庭を「安全基地」にする関わり方
学校という集団生活の中で、ASDの子どもたちは想像以上のエネルギーを消耗しています。周囲に合わせようと懸命に頑張り、帰宅する頃には心も体もぐったりしていることも少なくありません。だからこそ、家庭は「頑張る場所」ではなく、安心してありのままでいられる「安全基地」であることが大切です。
まず否定しない。「そう感じたんだね」と気持ちに名前をつける
子どもが「もう学校に行きたくない」と言ったとき、つい「そんなこと言わないで」と返してしまいがちです。しかし、ASDの子どもにとって最も必要なのは、自分の気持ちをそのまま受け止めてもらえる経験です。「そうか、つらかったんだね」と感情を言葉にして返してあげましょう。ASDの子どもは自分の感情を言語化することが苦手な場合が多いため、親が気持ちに名前をつけることで、自分の内面を理解する手助けになります。否定せず受け止めることは「甘やかし」ではなく、「この人には安心して話せる」という信頼の土台をつくる関わり方です。
「できたこと」に目を向けるスモールステップの声かけ
苦手なことばかりに目を向けると、親も子どもも消耗する一方です。どんなに小さなことでも「できたこと」を認める声かけを積み重ね、成功体験を重ねていくことが自己肯定感を育む鍵になります。褒め方は年齢や性格に合わせた工夫が大切です。大げさな称賛よりも、「お、それいいじゃん」「やるね〜」といった自然体での肯定のほうが心に響くこともあります。小さな目標を設定し、親子で「できた」を喜ぶ習慣をつくりましょう。
見通しと安心感を与える──「見える化」と感覚過敏への配慮
ASDの子どもは「次に何が起こるかわからない」状態に強い不安を感じます。朝の準備の手順をイラストで壁に貼る、部屋を「休む場所」「勉強する場所」と分けるなど、スケジュールや環境を「見える化」することで子どもの安心感は大きく変わります。また、感覚過敏への配慮も欠かせません。静かな部屋の確保や肌に優しい衣類の選択、無香料の洗剤への切り替えなど、苦手な刺激を減らす工夫が心の回復につながります。気持ちが爆発したときのために、家の中に安全に落ち着けるクールダウンスペースを用意しておくことも効果的です。
学校との連携で子どもを守る──合理的配慮の求め方
家庭を安全基地に整えると同時に、子どもが一日の大半を過ごす学校の環境を調整することも欠かせません。障害者差別解消法により、学校には合理的配慮を提供する義務があります。配慮をお願いすることは「わがまま」ではなく、お子さんの権利として認められた正当な相談です。
担任の先生に伝えるときの具体的な準備と伝え方
まず、お子さんの困りごと・その原因・具体的にお願いしたい配慮を整理しましょう。「困っています」だけでは先生も動きにくいため、「席を前にしていただけますか」「視覚支援をお願いできますか」のように具体的に伝えることがポイントです。診断書があると説得力が増します。また、家での様子やできることも伝えると、先生が対応を判断しやすくなります。伝える際は命令ではなくお願いの姿勢で、先生の多忙さへの理解と感謝も忘れずに伝えましょう。
サポートブック・配慮依頼書を「見える形」で共有する
口頭だけでは伝え漏れが起きがちです。お子さんの特性・配慮事項・家庭での取り組みなどをまとめたサポートブックや配慮依頼書を作成して渡すのがおすすめです。文書にすることで記録に残り、担任以外の先生やスクールカウンセラーとも正確に情報共有できます。サポートブックは自治体の福祉課や民間のテンプレートを活用すると作りやすいでしょう。
通級指導教室や学校内外の相談先も活用する
通常学級での配慮に加えて、通級指導教室という選択肢も検討してみましょう。通常学級に在籍したまま、週に数時間だけ特性に合わせた個別指導を受けられる仕組みです。担任の先生に相談しにくい場合は、特別支援教育コーディネーターや養護教諭、スクールカウンセラーに相談することもできます。それでも改善しない場合は、校長、教育委員会、発達障害者支援センターなど段階的に相談先を広げていきましょう。一人で抱え込まず、チームで子どもを支える意識が大切です。
親自身の心が折れないために──保護者のセルフケア
子どもを支え続けるためには、支える側である親御さん自身の心と体が健やかであることが欠かせません。発達障害のある子どもを育てる親は、日々の育児や将来への不安から精神的な負担を感じやすく、心の中で葛藤を抱えることも少なくありません。「子どものことで手一杯で、自分のケアなんて」と思うかもしれませんが、親が限界を迎えてしまっては、安全基地である家庭そのものが揺らいでしまいます。
「ちゃんと育てなきゃ」を手放していい
良い親になろうとするあまり、自己犠牲的に頑張りすぎてしまう親御さんは多くいます。しかし完璧を目指すほど心身の負担は増していくものです。キャパオーバーのときは頼まれごとを断る、行事の準備を先回りしないなど、「手を抜く」のではなく「余白をつくる」と捉えてみましょう。親の余裕は、そのまま子どもへの関わりのゆとりにつながります。
孤立しないために──同じ立場の親とつながる
ASDの子育てで最もつらいのは「この悩みを誰にもわかってもらえない」という孤立感ではないでしょうか。地域の親の会やオンラインコミュニティに参加すると、同じ悩みを持つ親と情報交換ができ、共感や具体的な解決策を得られます。「自分だけじゃない」と感じられることが、日々を乗り越える大きなエネルギーになります。
専門家の力を借りることは「甘え」ではない
限界を感じる前に専門家の力を借りることは、お子さんと家族を守る賢い選択です。かかりつけの小児科や児童精神科、臨床心理士・公認心理師によるカウンセリングでは、お子さんだけでなく親御さん自身の悩みも相談できます。どこに相談すればよいかわからない場合は、市区町村の福祉担当課や発達障害者支援センターに問い合わせてみましょう。自分をケアすることは、お子さんの安全基地を守ることにつながるのです。
自閉症の子どもが学校生活で感じている7つの生きにくさ
自閉スペクトラム症の子どもたちは、学校で多くの困難を抱えています。ここでは代表的な7つの生きにくさを紹介します。お子さんの気持ちを理解する手がかりにしてください。
①教室の騒音・光・匂い──感覚過敏による身体的なつらさ
多くの人が気にならない刺激でも、感覚過敏のある子どもには強い苦痛になります。ざわめきや蛍光灯、給食の匂いなど、教室は刺激にあふれた過酷な空間です。
②暗黙のルールが分からず友達関係でつまずく
冗談を言葉どおりに受け取る、遊びのルール変更に気づけないなど、暗黙のルールの理解が苦手です。仲良くしたいのにやり方がわからず孤立してしまいます。
③突然の予定変更や行事にパニックを起こしてしまう
見通しが持てないことは大きな不安の原因です。時間割の急な変更や行事など、いつもと違う状況に対応できずパニックを起こすことがあります。
④集団行動のペースについていけない苦しさ
口頭指示を一度で理解できない、着替えや準備が時間内に終わらないなど、集団のペースに合わせること自体が大きな負担になります。
⑤「普通にして」という言葉で自己肯定感が削られる
「みんなと同じようにして」という言葉は、特性ゆえに「普通」が難しい子どもには「あなたのままではダメだ」という否定として届いてしまいます。
⑥頑張っているのに怒られる経験の積み重ね
耳をふさげば「聞いていない」、板書が遅れれば「やる気がない」と叱られる。本人は懸命なのに努力が見えず、無力感に陥りがちです。
⑦助けを求められず一人で抱え込んでしまう
困りごとを言語化する力や相談の仕方が身についておらず、つらさを一人で抱え込みがちです。帰宅後の癇癪や無気力は心の限界のサインかもしれません。
学校での困りごとに気づくために──子どものSOSサイン
ASDの子どもたちはつらさを言葉にすることが苦手で、SOSは「行動の変化」や「体の症状」として現れます。見逃さないためのポイントを押さえておきましょう。
家での荒れ・癇癪は「学校で我慢した反動」かもしれない
「学校では問題ないと言われるのに、家では手がつけられない」という声は非常に多く聞かれます。これは学校で「普通に見えるように」全力で振る舞った結果、安心できる家でようやく緊張の糸が切れている状態です。帰宅直後の激しい癇癪や暴言、学校の話を極端に嫌がるなどのサインが見られたら、家での荒れを叱るのではなく、「今日も頑張ったんだね」と受け止める姿勢が大切です。
登校しぶり・体の不調・無気力に隠れた心のSOS
SOSは癇癪のような激しい形だけでなく、静かなサインとして現れることもあります。朝の腹痛や頭痛、好きだった遊びへの無関心、「どうせ自分なんか」という投げやりな発言、以前できていたことができなくなる退行などが代表的です。複数のサインが同時に現れたり、数週間以上続いたりする場合は、まず「休んでもいいんだよ」と安心させることが回復の第一歩になります。
子どもの話を「聞き出す」のではなく「受け止める」姿勢
原因を突き止めたくて質問を重ねると、ASDの子どもは「責められている」と感じてしまうことがあります。「今日どうだった?」のような曖昧な質問より、「給食は何だった?」と具体的に聞くほうが答えやすくなります。並んで座りながらゆったり過ごし、話してくれたら「教えてくれてありがとう」とまず受け止めましょう。絵や文字など言葉以外の手段も用意しておくと負担が軽くなります。SOSを受け止める準備ができていること自体が、最大のケアです。
まとめ──「わがまま」と決めつけない社会が子どもの未来を変える
ASDの子どもの行動を「わがまま」ではなく「脳の特性からくる困りごと」と理解すること。それがすべての支援の出発点です。家庭を安全基地に整え、学校には合理的配慮を相談し、親自身のケアも忘れない。この3つを軸に、無理のない範囲で取り組んでいきましょう。
今日からできることは小さなことで構いません。お子さんの話にうなずくこと、「そう感じたんだね」とひとこと添えること。その積み重ねが、子どもの未来を確かに変えていきます。一人で抱え込まず、専門家や支援機関の力も借りながら、お子さんの「自分らしさ」を一緒に守っていきましょう。
サービス管理責任者・介護福祉士・行動援護従業者養成研修
監修者略歴
日本福祉大学 社会福祉学部社会福祉学科卒業
大学卒業後、約12年間にわたり児童・障がい・就労・高齢の福祉現場にて従事。利用者ご本人はもちろん、行政機関・医療機関・他事業所と連携する中で福祉現場の「いま」を見続けてきた。
「丁寧な支援をしていても外部に伝えることができない」「新たな利用者を探すのが難しい」という現場の課題を解決するため、
就労支援特化のマッチングプラットフォーム「フラカラ」の運営に携わっている。
フラカラ編集部では、障がいのある方の就労や働き方について、できるだけ分かりやすく、実生活に役立つ情報をお届けすることを大切にしています。
制度や仕組みだけでなく、利用者の立場や現場で感じやすい悩みに目を向け、
一つひとつのテーマを丁寧に整理・編集しています。
難しい言葉や専門的な表現に偏らず、はじめて調べる方にも伝わる内容になるよう心がけながら、日々コラムの制作を行っています。



「怠け」や「わがまま」ではなく、環境とのミスマッチ
監修者コメント
学校で生じる困りごとの多くは「怠け」や「わがまま」ではなく、発達特性と環境とのミスマッチから起こるSOSです。外で常に緊張状態にある子どもにとって、家庭が「頑張らなくていい安全基地」であることは、自己肯定感を守り二次障害を防ぐために何より重要な土台となります。
学校への合理的配慮の申し出は「特別扱い」の要求ではなく、お子さんが等しく教育を受ける環境を整えるための前向きな対話です。一人で抱え込まず、学校や専門機関と「チーム」を組み、保護者ご自身のセルフケアも大切にしながら、持続可能なサポート体制を築いていきましょう。